福井雄三『シナ大陸の真相』

63年ぶりに発掘された本の正体

 

世の中には、人々があえて触れないようにしている本というものがあるようです。そして徐々に、その存在は忘れられ、記憶から消されてしまうのです。


ここで紹介するのは、1938年にロンドンの出版社から出版された1冊の本をめぐるものがたりです…
著者は日系アメリカ人の、K・カール・カワカミ。彼の本について、アメリカ人のフレデリック・ムーア・ヴィンソンはこう言います。

「戦前の〝彼〟の著作が日本人に重視されたならば、日本はアメリカとの戦争を避け得ただろう」

フレデリック・ムーア・ヴィンソン:ケンタッキー州選出連邦下院議員、最高裁判所長官、財務長官など、司法機関・立法機関・行政機関の3部門すべてに務めた経歴を持つ日米外交上の重要人物(出典:wikipedia)

 

アメリカで静かに消えたこの本は、当然、日本人に読まれることはありませんでした。

63年の時を経て、日本人に発掘されるまでは…

 

なぜ、彼の本はアメリカから消されたのか?
この本に書かれていたアメリカ人が知られたくない中身とは?

「敵性外国人」としてFBIに連行された著者

K・カール・カワカミはアメリカ当局から「危険な日本人」とみなされていました。「敵性外国人」のなかでも、すぐに身柄を抑える必要があるほど危険だとされていたのです。

当時のFBIや軍の諜報部は、日本側の対アメリカ世論工作や諜報活動にたずさわった疑いのある人物のリストを、さまざまな形でつくっていました。K・カール・カワカミの名はどのリストでもかなりの上位に記されていました。

そしてついに真珠湾攻撃が起きた夕方、FBIに連行されてしまったのです。

こうして、彼の著書はアメリカでの流通が減っていきました。

ではなぜ、彼は連行されたのか? それは、K・カール・カワカミが真実を知りすぎていたからです…

アメリカ言論界に鳴り響いていた名声

戦前、K・カール・カワカミの名はアメリカ言論界に広く鳴りひびいていました。
本名は河上清(カワカミ キヨシ)。山形の米沢で生まれた彼は野望を抱き、明治にアメリカに渡りました。

しかしこの時代、日本とアメリカの関係は少しずつ険悪なものになっていました…

「アメリカは日本を誤解している」

めきめきと力をつける日本に脅威を抱いたアメリカは、日露戦争以降、急速に日本人を敵視するようになったのです。

この激動の時代に、アメリカに渡ったキヨシは「K・カール・カワカミ」と名乗り、日米関係について、英語で著作を無数に発表していました。学術書といっても通用する厚い本をアメリカの大手出版社から十数冊も出し、、、アメリカの雑誌や新聞など有力メディアに数えきれないほどの英文の記事を寄稿し、、、同時に日本の全国紙向けにもアメリカでの出来事を伝える特派員を務めました、、、

この時代に、日本語と英語の両方の記事を書きながら、国際的に飛び回ったジャーナリストはあとにも先にもいません。まさに文字通り前人未到の「国際ジャーナリスト」でした。

彼はいったい何のために猛烈に仕事に励んだのか? すべては日本とアメリカの関係を良好にするためです。

「アメリカは日本を誤解している。このままでは日米は戦争に突入しかねない」

キヨシにはそんな焦りがありました…

しかし、アメリカ言論界にK・カール・カワカミとして名をとどろかせたキヨシも、ついには「敵性外国人」としてFBIに連行され、囚人とかわりない扱いを受けるにいたったのです…

63年間封印された本

こうしてアメリカでは流通が途絶え、そのままこの本は振り返られることがありませんでした。

一方、敗戦した日本にはGHQがやってきて、敗者を一方的に裁く東京裁判が開かれました。政治家や弁護士、大学教授、政府役人、企業役員から小中学校の先生まであらゆる指導者層にいた20万人以上が「公職追放」の名の下で解雇されました。

空いたポストに就いたのはGHQの意向にそった戦前の日本を全否定する人々でした。彼らは日本を全否定することで、ポストを得て、昇進していきました。だからそうした人々を「敗戦利得者」と呼ぶ人もいるくらいです。

こうして戦後もずっと「日本が悪かったんだ」という自虐史観は広まり続けました。

米国ジャーナリズム界のルートから入手したソビエトの秘密文書が満載

そんな圧倒的な劣勢の中で、「同時代の人が描いた証言の記録が必要だ」と資料収集をしていた人がいました。東京大学名誉教授・小堀桂一郎先生です。そんな中でたまたま出会ったのがK・カール・カワカミのこの1冊でした。

特にこの本が重要なのは、ソビエトの秘密文書がふんだんに引用されているという点です。しかも、まだ世界はおろか、欧米諸国でもまだ紹介されていませんでした。著者が米国ジャーナリズム界に通じていたからこそ、さまざまなルートを通じて秘密文書を手に入れることができたのです。

そこに描かれていたのは、ソ連側がいかに日本を貶めようという意図があったか、ということでした。「日本側が一方的に悪かった」と敗戦利得者たちがやかましく言い立ててきたこととは真逆の内容なのです。戦後の自虐史観を信じる人々にとってはまさに不都合な内容でした。

しかし大事なのはそれだけではありません。

これらはアメリカにとっても不都合な内容なのです。なぜなら、、、

この真実が明るみになってしまえば、アメリカがソ連と一緒に日本と戦争をした大義名分が失われてしまうからです。「アメリカやソ連などの正義の連合国 vs 日本やドイツなど悪の枢軸国」という対立軸がウソになってしまうからです。

「一刻も早く多くの日本人に知ってもらわなければ」

そう考え、小堀先生が友人の東京国際大学・福井雄三教授に頼んで翻訳したのが、『シナ大陸の真相 1931〜1938』です。

本書は、事変前夜の情勢を綴った、日系アメリカ人ジャーナリストによるノンフィクションの現地レポートです。

著者のK・カール・カワカミは、アメリカ言論界における重鎮的存在であり、日系アメリカ人として祖国日本の立場を代弁すべく、当時中国大陸で起きていたありのままの情勢を訴えています。

 

アメリカで「敵性外国人」の書物として排除され、日本でも顧みられることがなかった〝不都合な内容〟を、一度ご自身の目で確かめてみませんか?

目次

 

目次

◆第1章 モスクワから中国への軍事援助

2 中国紅軍の成長

◆第3章 コミンテルンと国民党の同盟

◆物語4 日本、赤色帝国主義に直面す

◆物語5 日本は侵略国か 、それとも権利を侵された国か

◆物語6 日本は侵略国か 、それとも権利を侵された国か(続)

◆物語7 いかにして戦闘は始まったか

◆物語8 上海、その問題点

◆物語9 ジュネーブ・ブリュッセル会議を拒否した日本の立場

◆物語10 日本の自衛権

◆物語11 もし日本が勝てば?

◆物語12 中傷誹謗運動