第二次世界大戦とアメリカ経済



この時代は、まだマクロ経済学という分野は十分に確立されていなかった。
「マクロ経済学」という言葉すらなかった。
ジョン・メイナード・ケインズが1936年の
『雇用・利子・貨幣の一般理論』を著わしたばかりといった頃である。
だが、現実は理論を待ってはくれない。
エクルズら政策当局者や、ハンセンら経済学者たちは、
デフレに続くインフレという、文字通り「山あり谷あり」の
乱気流経済に見舞われて、手探りで、
マクロ経済理論の構築とマクロ経済政策の開発を
同時に行なわなければならなかったのである。
そして、21世紀の現在もまた、
同じような乱気流に巻き込まれている。(中略)
2020年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、世界中が言わば戦時体制のようになり、
そして、2022年2月からは、ロシアによるウクライナ侵攻という戦争が始まった。
それとともに、インフレが引き起こされたのである。
まさに、1930~40年代と相似形である。
しかも、奇妙なことに、現在のデフレやインフレを巡る議論よりも、
マクロ経済理論が未発達で手探りの状態であったはずの本シンポジウムにおける議論の方が、
よほど水準が高いのである。
あまり知られてはいないが、2016年にノーベル経済学賞を受賞したポール・ローマーですら認めているように、
主流派経済学はこの三十年間で進歩したのではなく、むしろ退歩したのである。(中略)
我が国は、消費増税を二度も実行したのは、いつであったか。
インフレではなく、デフレに苦しみ、デフレ脱却を掲げていた安倍晋三政権下の2010年代だったのである。
このように、我が国の税財政政策の知的水準は、九十年前のアメリカよりもはるかに劣っているのである。
「失われた三十年」などと言われているが、そういう状態になったのも、何も不思議なことではない。
本シンポジウムは、マクロ経済学という分野の萌芽期と言うべき時代の議論であるから、
現代人から見たら、未熟に映る部分もあるかもしれない。
だが、本当に90年前の彼らが未熟だったのか、
それとも我々の無知ゆえに未熟に見えただけなのか、注意が必要であろう。」
(本書 p.362-p.368 中野剛志さんの解説文より一部抜粋)
====================================================
序 メイベル・ニューカマー (ヴァッサー大学教授)・・・p8
第1部 インフレの特徴・・・p13
・第1章 戦時中の個人支出
ミルトン・ギルバート(内外通商局調査統計部 部長代理)・・・p15
・第2章 農地ブーム
セス・D・シムズ(農務長官補佐官)・・・p27
・第3章 第二次世界大戦時の都市部の地価高騰
ホーマー・ホイト(ニューヨーク地域計画協会 経済研究部長)・・・p43
・第4章 戦時中の銀行預金と流通貨幣の増加
アーヴィン・バッシング(ニューヨークの貯蓄銀行信託会社 経済研究部長)・・・p57
第2部 公的債務に伴うインフレの可能性・・・p67
・第5章 公的債務に伴うインフレの可能性
アーヴィン・H・ハンセン(ハーバード大学)・・・p69
・第6章 公的債務に伴うインフレの可能性
ジェームズ・F・ヒューズ(スミス・バーニー)・・・p87
第3部 インフレ抑制のための財務手段・・・p101
・第7章 戦時中のインフレ抑制のための財務手段――連邦小売売上税
マリウス・ファリオレッティ(財務省税調査局)・・・p103
・第8章 小売売上税
ゴッドフリー・N・ネルソン(『ニューヨーク・タイムズ』紙局長)・・・p131
・第9章 支出税と物品
アルフレッド・G・ビューラー(ペンシルベニア大学)・・・p143
・第10章 インフレ抑制手段としての個人所得税
ロイ・ブロウ(財務省税調査局長)・・・p173
・第11章 強制貸付
カール・シャウプ(コロンビア大学)・・・p192
・第12章 社会保障税とインフレ
セイモア・E・ハリス(ハーバード大学)・・・p209
第4部 財政政策によるインフレ抑制――他国のケース・・・p229
・第13章 ソビエト連邦のインフレ抑制
アーサー・Z・アーノルド(ニューヨーク大学)・・・p231
・第14章 イタリアにおける財政政策によるインフレ抑制のケース
ジョージ・A・テソロ(アメリカン大学)・・・p247
・第15章 カナダにおける財政政策によるインフレ抑制のケース
A・ケネス・イートン(カナダ財務省税調査局長)・・・p277
・第16章 イギリスにおける財政政策によるインフレ抑制のケース
マリー・E・マーフィー(ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ)・・・p295
第5部 戦後のインフレの可能性および提案される税制措置・・・p323
・第17章 戦後のインフレの可能性および提案される税制措置
マリナー・S・エクルズ(連邦準備制度理事会議長)・・・p325
・第18章 戦後のインフレの可能性および提案される税制措置
J・W・オリバー(リネンスレッド社事務局長)・・・p355
・付録 税に関する情報および公教育
レオナルド・パワー(教育コンサルタント)・・・p355
・解説(中野剛志)・・・p362
・参考文献・・・p369